考える日々

学費は高いけど…私が美大に行って本当に良かったと思う理由3つ

ご存知の方も多いかもしれませんが、私立の美術大学ってすっごく学費がかかるんです。私はそんな美術大学の大学院まで出て美術作家の道を断念しました。

こんなことを言ってしまうと「そんなに高い学費払って通ったのに諦めるなんてお金の無駄だったんじゃないの」という意見もあるでしょう。

しかし、行った当人としては働いたり社会で生きて行くなかで、少なからず利点も感じています。

今回は私が美大に行って良かったなと、実感していることを大きく3つ書いてみます。

物の質を判断する感覚が養われる

あくまで主観ですが、美大に居ると日々たくさんの作品に触れるため、否が応でも“質の高い作品”と”そうでもない作品”というものの線引きやそれを判断する基準というものが自分の中で形成されていくような気がします。

特に過去の偉大な作家や現在第一線で活躍している作家の作品に多く触れることで、いわゆる「一流」と呼ばれる作品が共通して備えている完成度であったり、文脈性の強度みたいなものを抽出できるのは大きいです。

このようなことを通して培った感覚や基準というのは、いま美術以外のものを見る時にも役だっていて、何かモノを見るときに対象物が備えている「完成度」や「強度」といったものを、自分なりにですが捉えて、ある程度の確信を持って判断することができるようになっている気がします。

もちろん作品に触れることは美大に行かなくてもできるわけですが、良くも悪くもそれらの作品群に半ば強制的に触れさせられる環境に居るというのは美大に行く利点だと思いますし、自分の好みの外にある作品にも多く出会えるというのは学校ならではという風に感じます。

作品を発表する経験ができる

美大に行くとほとんどの学科で自分の作品を教授や生徒の前で発表する講評会というものがあります。
これはいわゆる一般の大学でいうテストにあたるもので、区切り区切りに行われることが多いのですが、これが本当に個人的には美大に行く醍醐味だと思います。

「学内での発表なんて何にもならん」という意見もあると思いますが、その後の作家活動につながるかどうかとは別に、ひとクセもふたクセもある教授や学生たちの前で発表し、厳しい審美眼に晒されるということ自体が凄く大きな経験になると思います。

「あるレベル以上の作品を出さないと話にならない」という緊張感のなかで作品を制作し、自分の名前で作品を発表するというのは本当に得難い経験だったなと今感じます。

そのような機会を何度も積み重ねることで、「良いものを作るためにはどういった負荷をどれぐらい自分にかければ良いのか」というのを体感的に学べましたし、それは現在も自分が物事に取り組むプロセスの優劣を判断する時の内的な基準になっています。

何より「自分が作らなければこの世の存在しないもの」を依頼もなしに作り上げて、それを人に見せて評価をあおぐという行為の重圧自体かなり異質なものです。
私は今でもあれ以上の得体の知れない重圧を未だに感じたことがありません。

あの経験があるから、社会に出て仕事をした時「合格ラインが明確な仕事ってなんてラクなんだ」と思えた気がします。

価値観が広がり人生に余裕ができる

こういう言い方が正しいのかがわかりませんが、美大で学んだことで私は非常に人生に余裕を持つことができたというか、「逃げ場」を持つことができたと感じています。

「自分の思想を信じて真剣に物を作り続ける人がこんなにいるのだ」ということを知れたことは、いわゆる利益を基準に動く社会に身を投じ行き詰まった時に「価値観は1つじゃない」と立ち返る拠り所になって、私に息をさせてくれています。

嫌が応にも画一的な生き方と自身を照らし合わせる機会の多い社会において、「どんな生き方でも受け入れてくれる土壌がある」とこの目で見て感じて知っているのは本当に大きいです。

ここまで書いてきたことは、高い学費を払って美大に通った自分を肯定するための言い訳かもしれません。

ただ、作品制作と向き合うなかで得た「自分を律する方法」や「ゼロから自分で構想して物を作り上げていくプロセス」、そして何より「自分が何かを作り出すことができるという実感」は今の私の生活を支えています。

確かにお金は多くかかったし、もろもろ遠回りだったなとも思いますが、その時やりたいと思った道を納得いくまで進んで来れたことには感謝しかありません。

もし何かの参考になりましたら幸いです。

では元気に良い毎日を。

【実録】27歳職歴なし無職が30代でIT企業の正社員になるまで私は美術大学の大学院まで出たにも関わらず、27歳で無職に。その後数年間フリーター、現在は紆余曲折を経て社員として働いています。いわゆる"一般的なルート"からはだいぶ迂回した道を辿ってきたのですが、煩悶とした日々から企業で社員として働くようになるまでの経緯、その過程において実感した大事な考え方などを書いていきます。...
美大大学院を卒業も27歳で無職に…yuichiro7212 プロフィール美術大学の大学院卒業。無職期間あり。内向型・30代独身の筆者プロフィール。...
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